笑わない数学者

僕がこの人の小説を好んで読むのは、本筋とはあまり関係のない場面での会話がとても好きだからです。

数学者・天王寺翔蔵博士が登場人物たちに対して、算数の問題を出します。それは 4 つの数字を用いたもので、次のような問題です。

「どんな順番でも良いから、それらを全部使って、足したり、引いたり、掛けたり、割ったりして、答えを 24 にしたまえ。」

僕はこの手のクイズがとても好きで、車のナンバーなど 4 桁の数字をみると、つい 10 にしようとひとり遊びを始めてしまいます。そんなわけで、このくだりはウキウキしながら登場人物たちと一緒に考えながら読みました。

初めに博士は 10, 10, 4, 4 という問題を出します。

10 に 10 を掛けて 100
100 から 4 を引いて 96
96 を 4 で割って 24

この問題は、僕もすぐに解けました。

そして、次に博士は 7, 7, 3, 3 という問題を出します。

しばらくこの問題について考えてみたのですが、結局、解けませんでした。

物語の中でも、皆、なかなか解けず、しばらくしてから主人公の西之園萌絵が次のように解答を示します。

3 を 7 で割って 3/7
3/7 に 3 を足して 24/7
24/7 に 7 をかけて 24

そして、この問題を受けて博士は次のように言います。

… 日常の常識が、あるときは思考の邪魔になるのだ。常識のために見えないものがある。さきほどの問題もそうではないか。3 を 7 で割ることは日常にはない。それが、この問題に皆が悩まされた理由だ。自由な思考をすることが最も大切なことだ。それが綺麗にものを見るということなのだ。 …

ふむ、なるほど。「常識」という思いこみのせいで、もしかしたら重要かも知れない選択肢を無意識的に取り除いてモノを考えているかもしれないってことですね。逆に考えると、例えば何かの解決策を考えるときに、その対象についての常識というものをまず洗い出してみて、そのひとつひとつの常識ってのがホントに常識なの?っていうふうに再確認する時間を作る、みたいなメソッドもありかな、とか思ってみたり。

数字遊びからこういう風に話を持っていく著者のセンスがとても好きです。

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