野口英世の左手と僕の人生

昔、少年マガジンで連載していた『Dr.NOGUCHI』という野口英世の一生を新しい解釈で描いた漫画がありました。

清作(野口英世)は、子供の頃、医者を志す前は教師になろうとしていたのですが、左手が不自由なため(運動の時間があるので)その夢を断念せざるを得なくなります。

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『Dr.NOGUCHI』の物語中では、教師を断念した直後に、国語の授業で作文を読むというシーンがあります。そこで清作が読んだのは、「自分の左手について」のもので、その文章はクラスメートの心を打ち、清作がどれだけ左手のことで悩み、苦しんでいたかについて知らしめられます。そして感動したクラスメートたちは、カンパにより清作の左手の手術をなんとか受けさせようと、物語は展開していきます。

清作の作文は以下のようなものでした。

「私は教師になりたかった。私は…私は…この左手が憎い。すべてを奪い去った…教師の夢をも奪い去ったこの…左手が憎い! 私の左手はいつも沈黙を守っている。いくら問いかけても私の左手は押し黙ったまま 私を暗黒の中へ引きずり込む!ある夜悪夢にうなされて起きると、私は愕然とする。それは現実が悪夢の続きだからだ!手が欲しい!みんなと変わらない左手が欲しい!左手さえまともだったら指を開いて茶碗をその左手にしっかり持って食事ができるのに!クワを両手で持ち母の代わりに畑を耕すことができるのに。一本一本の指でその汗の感触を確かめることができるのに!!左手さえまともだったら…… 左手さえまともだったらほかに何もいらない!貧乏でも心はきっと満ち足りる。私は、私はこの左手が憎い!」

この文章を読んだとき、僕は、ふと共感を覚えました。なぜでしょうか。僕と野口英世に共通点なんてありません。僕は教師になりたいわけでもないし、いくら胃弱とはいえ五体満足なのです。


ん? 胃弱?


!?


突如、猟奇的な思いつきが脳裏をよぎりました。

僕はその思いつきを実行するため、おそるおそる清作の文章をドラッグ選択し [Ctrl+H(置換)] を入力し、その震える手で、

左手 → 胃

の置換を実行してみました。

「… 私は…私は…この胃が憎い。すべてを奪い去った…胃が憎い! 私の胃はいつも沈黙を守っている。いくら問いかけても私の胃は押し黙ったまま私を暗黒の中へ引きずり込む!ある夜悪夢にうなされて起きると、私は愕然とする。それは現実が悪夢の続きだからだ!胃が欲しい!みんなと変わらない胃が欲しい!胃さえまともだったら指を開いて茶碗をその手にしっかり持って食事ができるのに! … 胃さえまともだったら…… 胃さえまともだったらほかに何もいらない!貧乏でも心はきっと満ち足りる。私は、私はこの胃が憎い!」


。゚(゚´Д`゚)゚。 ウワァァン


ここまで僕の人生をピッタリと表した文章があったでしょうか!

この文章を読んでいたら、大学時代、気になっていた女の子をご飯に誘ったのはいいけど、即、吐きそうになってトイレに籠もり、店を出た後「ううん、気にしてない。仕方ないよ。」って言ってくれたにもかかわらずそれ以来連絡が疎遠になったほろ苦い思い出や、家庭教師先で食事をご馳走になったのはいいけどお味噌汁をひとくちしか飲めず「不味かった?不味かった?」と涙目で生徒のお母さんに何度も聞かれた痛い思い出など、さまざま記憶が次々と脳裏をよぎり、いつまでたっても止まりません。


その夜、部屋の電気を消して真っ暗になった部屋でひとり。そっとベッドに腰掛けた僕の頬に一筋の涙が静かに静かに伝いました。

♪ Life is … / 平井 堅

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