ごく控えめに表現して、世界を見る目を変えてくれた本です。
「ネットワーク」と聞いて何を連想するでしょうか。
僕はインターネットやLANなど、コンピュータのネットワークのことを連想します。営業の人ならば人脈のネットワークを連想するかもしれませんし、ドライブ好きな人なら街と街をつなぐ高速道路のネットワークを連想するかもしれません。僕たちの住んでいる世界は、意識するとネットワークに満ちあふれています。
本書のポイントをひとことでいうと、
世の中のネットワークの多くは、ランダム・ネットワークではなくスケールフリー・ネットワークで構成されている
といったところでしょうか。
スケールフリー・ネットワークとかランダム・ネットワークという言葉をはじめて聞く人も多いかと思います。実際、僕もこの本を読んではじめて知りました。
電車や地下鉄の路線図を例にとって簡単に説明してみます。
路線図は、ぱっと見てわかるように駅(ノード)と駅が線路(リンク)でつながっている典型的なネットワークです。たとえば巣鴨駅からは、大塚駅と駒込駅、それに西巣鴨駅と千石駅に線路がのびていますね。
ここで、もし駅と駅が志向性もなくランダムにつながっているネットワークだったとしたら、例えば、新宿から5本、上板橋から5本、西巣鴨から4本みたいに、どの駅からも大体平均的な数の路線がのびているはずです。
しかし実際は、新宿駅や渋谷駅、東京駅、上野駅といった、いわゆるターミナル駅に路線は集中していて、その他の駅からはわずかな路線しかのびていないネットワークになっていると思います。
このように、ある少数のノード(駅)が膨大なリンク(線路)を持つ一方で、ほとんどのノードはごくわずかなリンクしか持っていないようなネットワーク構造をスケールフリー・ネットワークと呼ぶそうです。また、それに対してノードの間のリンクに規則性がなくて、まさにランダムにリンクが張られているネットワークをランダム・ネットワークと呼ぶそうです。
本書では、主にこのスケールフリー・ネットワークの性質についてたくさんの解説がされています。
スケールフリー・ネットワークでは多くのリンクを持つノードが存在すると説明しましたが、そのような特別なノードことをハブと呼ぶそうです。路線図の例でいうと新宿駅とかがハブにあたります。他にもウェブサイトのネットワークでいえば、Yahoo!やGoogleなどは膨大な数のリンクを持ち典型的なハブであるといえます。
そして、そのハブの存在が世界を小さくしているというのです。
昔、何気なく手に取った本の中に、
世界のどんな人ともたったの6人でつながっている
という一節がありました。
いわゆる6次の隔たり(6 degrees)というやつですね。知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いで世界中の誰とでもつながるという話は、当時の僕を興奮させるのには十分でした。
この6次の隔たりなんかは典型的な例で、ハブという存在(この例でいえばたくさんの知り合いを持つ人)によって60億人のネットワークがたったの6つの隔たりでおさまっているいうわけです。
本書では、その他にも学術論文や男女の性的関係、生体内のタンパク質の相互作用など、たくさんのスケールフリー・ネットワークについて考察がされていて、最初から最後まで驚きの連続です。
そして、そこから得られる知見は本当に広範囲にわたると思います。
野心的な人ならば人脈の広げ方にヒントを得るかもしれませんし、商売人ならマーケティングにだって生かせるでしょう。スケール・フリーネットワークの性質を知ればその壊し方だってわかるので、悪だくみにだって使えるかもしれません。
とにかくこの本は本当におもしろかったです。
世の中のネットワークについて知っているのとそうでないのでは日々の行動のあり方も全然違うと思います。同時に、現代の科学はこんなにも複雑な領域に踏み込んでいるのかとかなり衝撃を受けました。その複雑さから、実際には高度な数学や計算を駆使した相当難しい科学であることは素人にも容易に想像がつきますが、元サイエンスライターであった筆者の筆力と構成力のおかげでそんなことは感じさせずにスラスラと読めるかなりの良書だと思います。
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