意図したわけじゃないんですけど、なぜか博士続きになっちゃいました。
記憶力を失った天才数学者、と私、阪神タイガースファンの息子の 3 人の奇妙な関係を軸にした物語。(出版社によるあらすじより)
「博士の記憶が 80 分しかもたない」という前提のせいか、全編通して、静かな悲しさを感じながら読みました。でも、逆にベースにそういう悲しさがあるが故に、逆に登場人物たちのピュアな温かさが伝わってきて、物語の魅力になっているように感じました。
また、この小説のもうひとつの大きな魅力は、随所に登場する数学(というか数論)です。
「一つ、私の発見について、お話ししてもかまわないでしょうか」
小枝が動きを止め、沈黙が戻ってきた時、自分でも思いがけない事を口走っていた。レース模様の美しさに心を奪われ、自分もそこに加わってみたくなったのかもしれない。そして私は、博士がその幼稚すぎる発見を、決して粗末に扱ったりはしないと確信していた。
「 28 の約数を足すと、 28 になるんです」
「ほう…」博士はアルティン予想についての記述の続きに、
28 = 1 + 2 + 4 + 7 + 14
と書いた。「完全数だ。」
「カンゼン、数」揺るぎない言葉の響きを味わうように、私はつぶやいた。
数字には、実は、いろいろな名前が付いているものがたくさんあって、それらに僕の知らない法則が潜んでいることを知って、ものすごく知的好奇心を刺激されます。僕はどちらかというと、これらの数学的な挿話のほうに興味を引かれました。読了後、すぐに「はじめての数論」を注文したのは言うまでもありません。
久しぶりに人に勧めたいと思った本でした。
コメント