西台-高島平 母子失踪ルート(西村京太郎風)

昨日の夜の話である。

弟と一緒に、西台にある弟オススメのラーメン屋「戎(えびす)」にラーメンを食べに行った。数年前に流行った和歌山ラーメンを出す店で、わりと絶味であった。

帰り道。

弟が突然わけのわからない表明を、わけのわからないテンションではじめた。

「大通り(高島通り)を通るのはやめて閑静な住宅地のほうを通って帰るべきだ。我々は閑静な住宅地の方を通って帰るべきだ。」

おそらくは「閑静な住宅地」という言葉を使いたかっただけだと思うのだが、別に遠回りというわけでもないので仕方なくついて行った。

そして、それが事件の始まりであった。

確かに、ある一点の例外を除いては閑静な住宅地であった。

例外とは、遠くのほうから否応なしに聞こえてくる赤ちゃんの泣き声である。結構すごい剣幕で泣いている様子である。そのまましばらく歩くと、赤ちゃんの泣き声はだんだん大きくなってきた。

弟「ねぇ、この赤ちゃんの泣き声、あそこの公園から聞こえてくる気がしない?」
僕「うん、確かにあの辺だね。てか、あれ、むしろ捨て子だけどね。段ボール箱に入った赤ん坊が、すでに寝台特急カシオペアに乗って逃亡中の母親の帰りを、寒空の公園の下、健気に待ってるんだよ。オマエ、第一発見者として責任もって育てろよな。認知しろよな。」
弟「イヤだよ、そんなの。荷が重いっすよ。あんまりっすよ。」

などと、軽口をたたきながら公園の側まで近づいた。泣き声の距離からして、赤ちゃんが公園の中にいるのは確実である。

さすがにふたりとも黙って公園の横を通り過ぎた。暗がりでよく見えなかったが、母親らしい女性がベンチに座って赤ちゃんを抱いていたように見えた。軽口たたいていたくせに、実は 20% くらい捨て子説を信じていたので軽くほっとしたのだが、一方で、その親子に妙な違和感を感じた。

そして、その違和感は弟も感じていたらしく、しばらくして弟から口火を切った。

弟「あれ、なんかオカシクない?」
僕「絶対、オカシイ。てか、不自然。」
弟「だよな。」
僕「オカシイ点、その 1。この寒空の下、赤ちゃんを抱いて公園にいること。 」
弟「その 2。赤ちゃんの泣き方が尋常じゃないこと。」
僕「その 3。母親が赤ちゃんを全くあやしていないこと。それと、その 4。俺らの方をチラ見したこと。」
弟「見てた?」
僕「うん、見てた。」
弟「あー、これ絶対、事件(ヤマ)だな。犯罪の臭いがするもん。犯人(ホシ)は、あの女の旦那の友達だよ。」

弟は昨日、火サスを見たらしくすっかり刑事(デカ)気分である。発言にも刑事(デカ)言葉が混じっている。

僕らは、なんか見てはいけないものを見てしまったような、イヤな感じがしていた。

実際、僕らの会話も、これからスコップで赤ちゃんを埋めようしているんだとか、そういえばスコップ持ってただとか、最近の事例から推測すると埋められても 3 日くらいは大丈夫だとか、かなりイヤな感じの方向に推測会話が進みつつあったので、なんとかあのシチュエーションにポジティブで妥当な説明をつけようという流れになった。

そう。ぼくらの世界はそんなに病んじゃいないはずだ。

弟「オレの推理によるとさ、あれ、赤ちゃんが泣きやまなくなって、うるさくて仕方ないから外に出てきたんだよ。」
僕「うーん、こんな夜にわざわざ寒いところに赤ちゃん連れてくるかなぁ。それに、ただ泣いてるって感じじゃなかったよね。」
弟「じゃあ、これはどう? 赤ちゃんが怪我してるんだよ。で、パニクって外に出てきたんだよ。」
僕「すぐそこに、病院(高島平中央病院)あるんだから病院連れて行くと思うけど。」
弟「あ、わかった。あれ、夫が酒乱なんだよ。だから夫のヒステリーがおさまるまで、公園で待ってるってわけ。」
僕「かなりいい感じだけど、理由 3 の全くあやしていないってのが説明つかないよね。」
弟「うーん…。」

そして残念ながら、いまだに妥当な説明はついていない。

ぼくらの世界はやはり病んでいるのかもしれない。

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