悲しみ

「カノくん、昨日言ってた、えーと、サポートデスクに問い合わせがあってからシステム維持管理会議が開催されるまでの流れを作るっていう話あったよね。その件だけど、私がちょっとパワーポイントで漫画を描いてみたから、カノウくんが今作ってくれてるワードの資料の適当なところに差し込んでおいてくれないかな。漫画みたいのがあると資料も映えるしね。自分でやればいいんだけど、実をいうと貼り方わからないんだ。あははは。」
「あ、はい、わかりました。入れておきます。それで、そのパワーポイントのファイルはどこにありますか?」
「あ、ごめんごめん。ファイルサーバの運用検討資料っていうフォルダの中に、体制図っていう今日の日付が付いてるファイルがあるでしょ、それ。」
「あ、ありました。」

「ん? 何、ニヤニヤしてるの?」
「すいません。なんか、このサポートデスクのヤツらがあまりにもやる気ない顔してるなー、って思って。」

「あれ、そうだったっけ? 電話かけてるやつなら、なんでもいいやと思って、適当に持ってきたんだよ。」
「うーん。この資料ってユーザーさんのところに持っていくんですよね? ちょっとまずいんじゃないですかね。これ、ちゃんと見ないと見逃しがちなんですけど、右手で頬杖ついてますからね。完全に仕事ナメてますよ。しかも三人ともですから、ここの職場の雰囲気はかなり荒んでますね。うん、間違いないです。」

「うーん、よく見たらそうだなぁ。ちゃんとクリップアートから取ってきたんだけどなぁ。」
「マイクロソフトのクリップアートはオカシナやつ多いですからね。なぜかフツーに法王とかありますし。」
「あっ!」
「え、どうしました?」
「そのクリップアート、タイトルが “悲しみ” になってる!」
「あー、なるほど。それならあのやる気のない態度もわかりますね。」
「頬杖も納得だな。で、変更するかい?」
「そうですね。 でも “悲しみ” とあらば、あえてこのまま攻めてみるのもアリかもしれませんね。サポートに問い合わせが減ってコスト減らせるかもしれませんよ。」
「そうはいかんだろ。さっき荒んだ雰囲気だとか、なんか好き放題いってたじゃないか。」
「ばれましたか。では、それっぽいやつに差しかえておきますね。」

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