最後の将軍

徳川十五代将軍・徳川慶喜の生涯を描いた小説です。

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僕は幕末に興味がなかった人に幕末の本を薦めるときは、まずこの本を推しています。300ページ弱で完結するので、気負わずに維新の雰囲気を味わうにはかなり手頃だからです。

しかしページ数が少ないからといって侮るなかれ。内容は相当濃いです。司馬遼太郎の小説の中でも、心にガツンと響くシーンやフレーズがたくさん出てくるという意味では随一だと思っています。

全編にわたってとてもすばらしいのですが、なんといってもそのすばらしさを凝縮したような書き出しが僕はとても好きです。

人の生涯は、ときに小説に似ている。主題がある。
徳川十五代将軍慶喜というひとほど、世の期待をうけつづけてその前半生を生きた人物は類がまれであろう。そのことが、かれの主題をなした。

この文章は半年くらい前に読んだ清水義範の『大人のための文章教室』でもリズムが心地よい名文として紹介されていて、「おお、やっぱ、そうだよね!」とひそかに共感したのは記憶に新しいところです。

さて、この小説を読む以前の僕の中の徳川慶喜像は、幕府をほいほいと明け渡した情けない男といったイメージでした。おそらく中学校時代の歴史の先生の説明不足と当時の僕の勝手な想像が原因だと思います。

なので、はじめてこの本を読んだときはそのギャップに本当に驚いたことを覚えています。情けない男どころか、あらゆる才覚に優れ、剛毅な性格を持ち、先見の明を持った、まさに英雄と呼んでよい人物でした。明治維新の立役者は西郷隆盛でも大久保利通でもなく、この徳川慶喜だという意見もあるほどです。

1858 安政の大獄
1866 薩長同盟
1867 大政奉還

現在の中学校教育についてはよく知りませんが、少なくとも僕が中学校の歴史の授業から学んだ幕末はこの程度、たった数行の年表でしかありません。そして、これだけ覚えていればテストでいい点が取れました。

しかし15歳の僕は、この3行で書かれた10年間にどれだけの人物がでて、どれほどの情熱で人が動き、どんな謀略・機略があって、結果どのようにして日本が変わっていったのかという凄まじい人間ドラマについて全く知ることなく、そしてそのまま約10年間を過ごしました。もしも15歳のときに幕末の情熱を少しでも感じることができたならば、僕の人生は違う方向に向いていたかもしれません。

「歴史から学ぶ」などというとちょっと大袈裟ですが、歴史を知り、そこから何かを感じ取ることがないならば、歴史を勉強する意味なんてないと思います。この小説を読んで感じたような大きなギャップを味わうたびにしみじみとそんなことを思ったりするわけです。

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