不謹慎な本能

「誰でもいいから、もうひとり交通事故にあえばいいのに」

極端にいってしまえば、ふとそんなことを思った。


こう書くと、僕のことをとても不謹慎な人間と思う人がいるかもしれない。

なにしろ「誰でもいいから」である。

無差別である。

もしかしたら、その「誰でも」のなかには、寝たきりの父を養うために高校を辞め、昼も夜も働き続けている健気な女の子がいるかもしれない。もしくは、入院中の少年に明日の試合でホームランを打つことを約束したスランプ中のホームランバッターがいるかもしれない。

とにかく、かなり残酷な話である。

しかし、この感情はきっと誰もが抱く種類のものなのだ。


さて、僕がその不謹慎な感情を抱いてしまったのは、警察署の前に張ってあった次の掲示を見たときであった。

本日の交通事故

負傷者:299

自己弁護というわけではない。

そんなつもりはまったくないのだが、299という数字を目にして心の中でこっそりカウントアップをしてしまった僕はそんなに残酷だろうか。10進数の世界で生きてるんだから、99ってきたら桁を上げたくなるじゃん、というのが僕の主張(言い訳)である。

それでも中には、

「いやいや、そんなことあるわけないじゃん。誰かが事故にあうんだよ? ちょっと不謹慎すぎー。」

という人もいるかもしれない。

しかし、そんな健全な人もこれならどうだろう?

本日の交通事故

負傷者:29999

いくら健全だからって、29999を見てプラス1の感情を抑えるのはさすがに無理な話だろう。理性でいくら抑えても、本能が無益な負傷者をひとり作ってしまうのだ。

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