本書は、以前にも紹介した『博士の愛した数式』(つい最近文庫本も出ましたね)の著者である小川洋子さんと、お茶の水大の藤原正彦教授の対談集です。
この本、かなりイイです!
素人にもわかるやさしい言葉で数学者や数学の美しさについて語られているので、たとえ数学にちょっと距離感を感じているひとでも、とりあえず美しいものが好きならば絶対気に入ると思います。
せっかくなので、特に印象に残ったところをちょっと長いですけど引用しておきます。
8章あたりからπ(パイ)の話になるのですが、そのからみででてきたオイラーの公式のくだりです。数学が苦手な人でも名前くらいは知っているんじゃないでしょうか。eπi = -1 っていう例のやつですね。
僕が初めてオイラーの公式を知ったのは確か高3のときだと思うのですが、そのときは受験勉強の流れでちらっと眺めた程度(出題範囲じゃなかった気がする)だったので、数式を見ても別になんとも思わなかったし、当然ながらこの公式が人類の至宝と呼ばれていることなんて全く知りませんでした。
しかしそれが数学者の口から語られるや、どれだけこの公式が奇跡的なのかということが伝わってきて、圧倒的な美しさに泣きそうになります。人間はあまりにも美しいものに触れると自然と涙がでてきますね。
藤原:(πは)もうめったやたらに出てくる。神様の悪戯というしかない。たとえば『博士の愛した数式』にもしきりに出てくる「オイラーの公式」だってすごく不思議です。eπi = -1。eは自然対数の底です。2.71828…
小川:eは無限に続く。πも無限に続く。iは目に見えない想像の数(虚数)。
藤原:それなのに、eをπi乗すると、いきなり-1です。πとiなんて何の関係もない、円周率と虚数でしょう。ところが、eというお仲人のもとに結婚させると、-1という子供が生まれちゃう。こんなことはありえない話でしょう。全部関係ないもの同士です。対数からくるe、円周率からくるπ、虚数からくるi。スーパースター全員集合です。それをこうやって結び付けると-1になっちゃう。こんな信じられないことが、数学には山ほどあるんです。
小川:無限に永遠に続く数が、一瞬にしてパッと手品をかけられるみたいに-1になってしまう。魔法ですね。(中略)
藤原:オイラーの公式のようなものがあるでしょう。あれは、あまりにも美しいでしょう。eとかπとかiの正当性が保証されている感じがします。
小川:やっぱりiは間違ってないんだと…。
藤原:そう。人工物じゃない、神様が作ったものだと。
小川:そうですね。
藤原:あんな奇跡的に美しい関係が、人為的なものの間に、成立するはずがない。間接的にeとかπとかiの正当性が保証されるんです。
本書には、他にもこういう感じの話がたくさん書いてあります。美しいもの好きなひとはぜひ読んでみてください。
余談ですが、近々『博士の愛した数式』は映画化されるらしいですね。折しも邦画ブームだし、この映画のヒットを皮切りに2006年はもしかしたら空前の数学ブームがくるかもしれませんね。夏あたり日本はたぶん数学一色な感じになってることでしょう。まずはメンズノンノとかで特集が始まり、数学ができる男がモテはじめます。もちろん合コンではヒルベルト問題やケプラー予想について盛り上がります。そうなると年末には確実に数学バーとかがちらほらできはじめますね。出てくるカクテルの名前はケプラーとかガウスとかフェルマーとか。もちろん値段は全部メルセンヌ素数で決まりです。ただし2203円以上のカクテルは飲む気しませんが…。て、何の話だっけか。
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