スカイ・クロラ

森博嗣といえば、『すべてがFになる』から『有限と微小のパン』まで続く、いわゆるS&M;シリーズしか読んだことがなかったのですが、そのほかにもいろいろ書いているということで何気なく手に取った一冊です。

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とにかく、ミステリのときとまったく雰囲気が違うので新鮮でした。

とても、静かで、透明感があって、無駄のない文章。戦闘シーンの緊迫感や、戦闘から日常へ戻ったときの倦怠感。そういった登場人物たちを取り巻く感情が、高い純度で伝わってきます。

舞台は近未来の戦争のある世界ですが、作中に説明はほとんどありません。戦闘機乗りの主人公「僕」が、戦闘機に乗り、人を殺し、生と死について考える。ストーリー的にもおもしろかったのですが、読後に僕の頭に強く残ったのは、むしろそういった「僕」の思考そのものでした。

ボールの穴から離れた僕の指は、
今日の午後、
二人の人間の命を消したのと同じ指なのだ。
僕はその指で、
ハンバーガも食べるし、
コーラの紙コップも摑む。
こういう偶然が許せない人間もきっといるだろう。
でも、
僕には逆に、その理屈は理解できない。
ボウリング場のシートと同じグラスファイバが、ロケット弾の翼に使われている。花火大会と爆撃は、ほぼ同じ物理現象だ。自分が直接手渡さなくても、お金は社会を循環して、どこかで兵器の取引に使われる。人を殺すための製品も部品も、必ずしも人の死を望む人たちが作っているわけではない。
意識しなくても、
誰もが、どこかで、他人を殺している。
押しくら饅頭をして、誰が押し出されるのか……。その被害者に直接触れていなくても、みんなで押したことには変わりはないのだ。
私は見なかった。私は触らなかった。
私はただ、自分が押し出されないように踏ん張っただけです。
それで言い訳になるだろうか?
僕は、それは違うと思う。
それだけだ。
とにかく、気にすることじゃない。
自分が踏ん張るのは当然のことだから。
しかたがないことなんだ。(P245)

余談ですが、初めは本書を文庫版で買ったのですが、本シリーズは装丁が非常に美しく、インテリアとしても全然アリなので、ハードカバー版を買い直しました。

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